ブラインドフォースがやらないこと
── 受託ビジネス全盛の日本経済に、あえて問う ──

1. はじめに ── 毎日届く「支援」の売り込み
ブラインドフォースを設立してから、ほぼ毎日のように営業の連絡が届く。営業代行、採用代行、マーケティング支援、業務BPO、ITコンサルティング、動画編集、……。会社の基本方針すら定まっていない創業直後の段階から、である。
最初は単なる「迷惑な営業」として受け流していた。しかしある日、これほど多くの「支援会社」が存在し、創業直後の小さな法人にまで群がってくるという事実そのものが、日本経済の構造を映し出していることに気づいた。
本稿は、その気づきから始まった。「なぜ支援会社ばかりが元気で、事業会社が伸び悩むのか」という問いを軸に、日本経済が抱える構造的問題を整理し、そのうえでブラインドフォースが何をしないのか、何を大切にするのかを明確にしたい。
2. ビジネスには二種類ある
ビジネスモデルを大きく分類すると、次の二種類に収斂する。
| 分類 | 特徴 |
| B2C型 事業会社 | 消費者に商品・サービスを提供し、対価を得る。製造、小売、飲食、エンターテインメント、SaaSなど。 |
| B2B型 ソリューション会社 | 事業会社を対象に、広告・採用・IT・法務・経理などの機能を「支援」として提供し、対価を得る。 |
どちらも必要な存在であることは言うまでもない。問題は、両者のバランスが極端に崩れてきたことにある。かつて日本経済を牽引したのは、自動車・電機・食品・小売といった事業会社だった。それが今や、広告代理店・人材会社・コンサルティングファーム・ITサービス企業が高収益を謳歌する一方、事業会社の利益率は下がり続けている。
| 「支援すること」が産業になった結果、支援される側の体力が奪われている。 これが今の日本経済の実像である。 |
3. 中抜き構造の拡大と「空回りする経済」
3.1. 利益の流出メカニズム
外注とは本来、コスト削減や専門性の確保を目的とする。しかし日本の現実は異なる。事業会社が「効率化」の名のもとに業務を外部へ出せば出すほど、利益はソリューション会社へと流出する。事業会社では「餅は餅屋」「自分たちにしかできないことをやる」と言って、自社のビジネスモデルの強みは何か考えることなく、バリューチェーンの一部を外部化していく。それによって足腰が弱っていくことも知らずに。広告は電通・博報堂へ、採用はリクルートへ、IT戦略はアクセンチュア・ベイカレントへ、経営改革は大手コンサルへ、AI活用はいまや東大松尾研究所のスタートアップへ。それぞれの分野で「支援産業」が大きく育ち、事業会社の利益を構造的に吸収している。
| ◆ 日本の労働生産性はOECD 38カ国中31位(2023年) 一方、コンサル・人材・IT支援業界の平均営業利益率は20〜40%を超える。製造業・小売業の平均営業利益率(3〜8%)と比較すると、利益が事業会社から支援会社へ移転していることは明白だ。 |
3.2. 人材の逆流という悪循環
さらに深刻なのが人材の流出である。事業会社がDX人材に提示できる年収が400〜600万円のとき、アクセンチュアやベイカレントは複数クライアントからの収益を原資に600〜1,000万円を提示できる。この給与格差が、本来であれば事業会社の内製化を担うべき優秀な人材を、皮肉にも「内製化を阻む側」へと引き寄せている。結果として事業会社は「優秀な人材がいないから外注するしかない」と正当化し、ソリューション会社は「優秀な人材を揃えています」と営業する。この構造が、相互に強化し合いながら固定化されていく。
| 構造が人材市場を歪め、人材市場の歪みが構造を強化する。 事業会社の内製化能力は、年々失われていく。 |
4. IT/DX領域で特に深刻な「骨抜きビジネス」
「DX推進」という大義名分のもと、この構造はIT/DX領域で最も顕著に現れている。典型的なパターンは次のとおりだ。
| フェーズ | 実態 |
| ① 戦略策定 | 「何をすればいいか分からない」→ 大手コンサルに依頼(数千万円) |
| ② 設計・実装 | 「実装は得意ではない」→ SIer・ITベンダーに発注(数億円) |
| ③ 運用・保守 | 「運用は専門外」→ BPO・MSPに委託(年間数千万円) |
| ④ 結果 | 「DXしました」という報告書だけが残る。内製能力ゼロ、外部依存コスト増大。 |
最終的に、事業会社には「DXした」という実績と膨らんだ固定費だけが残り、自社でITを使いこなすケイパビリティは何も育っていない。これを繰り返すことで、事業会社はソリューション会社への依存をますます深めていく。このビジネス構造に乗っかることが、今のIT業界では「普通のやり方」になっている。しかしそれは、クライアントの長期的利益ではなく、ソリューション会社の継続収益を優先した構造にほかならない。
5. この構造を変えようとする動きはあるか
5.1. 政策の限界
「価値創造企業と中抜き企業で法人税を変えるべきではないか」という議論は、政策論として成立し得る。しかし残念ながら、日本でこれが正面から議論されたことはほぼない。理由は明確だ。経団連加盟の大企業の多くが、広告・人材・ITサービスの「発注者」であると同時に「受注者」でもある。ロビイングの利害が複雑に絡み合い、構造への批判的議論が生まれにくい環境にある。R&D減税やスタートアップ優遇税制など、事業創出企業を部分的に優遇する制度は存在する。しかしそれは「中抜き構造の是正」という問題意識には程遠い。
5.2. 構造を見抜いた経営者たち
経営者の中にも、この問題の本質を理解し、独自の方針を貫いている人物がいる。
- 永守重信(ニデック)── 「モーターで世界のエネルギー効率を上げる」という製造業への信念を一貫して持ち、コンサル依存型の経営を公然と批判する。
- 柳井正(ファーストリテイリング)── 製造小売(SPA)モデルを徹底することで、中間業者を構造的に排除。「内製」の哲学を事業モデルに組み込んだ先駆者。
- キーエンス ── 営業・開発・製造思想を一貫して内製。外注依存・コンサル活用を構造的に排除し、業界最高水準の利益率を維持している。
これらの事例に共通するのは、「外に出せば楽になる」という誘惑に抗い、自社の力を内部に蓄積し続けるという一貫した意思だ。逆に言えば、それが「稀有な存在」として際立つほど、日本企業全体では逆の方向に流れているということでもある。
6. ブラインドフォースがやらないこと
以上の問題意識を踏まえ、ブラインドフォースは次のことを明確に「やらない」と宣言する。
① 依存関係を作る支援はやらない
クライアントが自社で判断できない状態を「当然」として受け入れ、判断のたびにコンサルへの依頼が必要になる構造を意図的に作ることはしない。私たちの支援は、クライアント自身が「自分たちで考え、決め、動ける」ようになることをゴールに設計する。支援の成功の定義は、クライアントが私たちを必要としなくなることである。また契約書の有効期限はデフォルト3カ月として、双方合意の上で1回まで更新できる(つまり最大6か月)とする。
| 「ブラインドフォースは、クライアントが私たちを必要としなくなることを、成功の定義とします。」 |
② 内製化を阻む外注化を推奨しない
「とりあえず外注すれば解決する」という短絡的な提案はしない。外注が適切な場合はもちろんあるが、それはあくまで内製ケイパビリティを育てた上での戦略的判断であるべきだ。特にIT/DX領域において、「戦略はコンサルへ、実装はSIerへ、運用はBPOへ」という分業体制を無批判に推奨することはしない。その結果が事業会社の内製能力の空洞化であることを、私たちは明確に認識しているからだ。
③ 「支援会社」の論理で動かない
ソリューション会社のビジネスモデルの本質は、クライアントの継続的な依存によって収益を確保することにある。そのため、支援会社は意識的であれ無意識であれ、クライアントを「卒業させない」方向に動くインセンティブを持つ。ブラインドフォースはこの論理に従わない。私たちは売上の最大化よりも、支援の誠実さを優先する。クライアントの状況によっては、「私たちへの依頼は不要です」と伝えることも厭わない。
④ ベンダーや販売代理の立場に立たない
特定のツール・製品・サービスの販売から利益を得る構造は持たない。ブラインドフォースはあくまでユーザー企業(買い手)サイドに立つ独立したアドバイザーであり、何かを売りたいという動機から自由であることが、私たちの価値の前提条件だ。「このツールを導入すれば解決します」という提案は、ツールのコミッションを受け取る立場の人間が言うべきことではない。私たちはその利益相反の構造に入らない。①とも関連するが、むやみに契約を延長しない。
7. では、ブラインドフォースは何をするのか
「やらないこと」を定義することは、同時に「やること」を際立たせる。ブラインドフォースが目指すのは以下の三点だ。
▶ 事業会社の「自立」を支援する
IT/DX・セキュリティ・組織設計・経営戦略のいずれの領域においても、クライアント自身が判断できる力を育てることを支援の中心に置く。知識の移転、内製化の設計、意思決定プロセスの整備が、私たちの主要なアウトプットだ。
▶ CIO・CFOレベルの独立したアドバイザーとして機能する
経営層が「誰も本音を言ってくれない」という孤独に直面することは珍しくない。ブラインドフォースは、ベンダーにも社内政治にも縛られない独立した立場から、経営判断に資する情報と視点を提供する。
▶ 日本企業の生産性向上に、事業会社サイドから貢献する
私たちはソリューション会社ではなく、事業会社の側に立つ。日本経済が本当に元気になるためには、事業会社が自ら価値を創り出す力を取り戻すことが必要だ。その再生に、ブラインドフォースは微力ながら貢献したいと考えている。
8. おわりに ── 構造を疑うことから始まる
「毎日届く支援会社の営業」は、日本経済の縮図だった。誰もが誰かを支援することで生計を立て、支援される事業会社の体力は少しずつ削られていく。その構造の中で「自分たちも支援会社になろう」とすることは、私たちには選択肢としてなかった。
ブラインドフォースが「やらないこと」を宣言するのは、斜に構えているからではない。日本企業の本当の意味での強さを取り戻すためには、受託・支援・外注の連鎖に加担するのではなく、事業会社が自立する力を育てることが必要だという確信があるからだ。
短期的には、依存関係を作った方が売上は安定する。しかし私たちは、クライアントが私たちを必要としなくなる日を、ともに喜べる関係を作りたいと思っている。
| それが、ブラインドフォースの存在理由である。(はず) |
